概要:欧米に比べ、有機炭素が豊富な日本を含むアジアモンスーン地域の森林土壌は、微生物呼吸の温暖化に対する長期的なCO2排出量増進の応答が大きいことに加え、温暖化に伴う土壌の乾燥化でCH4吸収能が上昇する可能性も、土壌の劣化でCH4吸収能が低下する可能性も秘めている。しかし、CH4を含めた土壌炭素動態の気候変動応答に関わる観測データの欠如は、将来予測の大きな不確実性の一因となっている。
森林における土壌炭素動態への気候変動影響メカニズムの解明に加え、世界的に前例のない、アジア域を網羅する森林土壌におけるCH4吸収能に関する多地点連続観測、広域推定及び将来予測を行うために、国立環境研究所が開発した世界最大規模のチャンバー観測ネットワークを活用する。北海道からマレーシアまでの広域トランゼクトに沿って選定した代表的な森林生態系を対象に、(1)CH4フラックスの連続観測を新規に10~12ヶ所展開し、世界的に貴重な森林土壌のCH4フラックスに関する長期連続観測データを得る;(2)温暖化操作実験を世界的な観測の空白域である熱帯林2ヶ所で展開し、温暖化に対する土壌炭素貯留量の変動に関する新たなデータを構築する;(3)CH4/CO2フラックスに寄与する土壌微生物特性および土壌呼吸中放射性炭素(14C)を分析し、土壌炭素動態の長期的な温暖化応答メカニズムを解明する;(4)土壌呼吸の観測をより長期化し、短期的な気候変動や極端気象、土地利用変化、森林施業などの影響を定量的に検出する;(5)得られた観測データに基づき、機械学習や経験モデル等の複数のアプローチを検証しながら活用し、アジア域における超高解像な土壌CH4/CO2フラックスの広域推定と将来予測を行う。そこで本研究では、土壌の炭素蓄積能やCH4吸収能に対する気候変動の影響を、日本を含むアジア域の森林で総合的に評価する。パリ協定やSDGsの目標達成のために、土壌炭素貯留量やCH4吸収能の維持及び強化を考慮した緩和策と適応策の策定に資する、科学的根拠を提供する。
http://www.erca.go.jp/suishinhi/seika/pdf/seika_4_h30/2-1705.pdf