研究プロジェクト

アジアの森林を中心とした陸域生態系物質循環に関する観測研究

1. (独)環境再生保全機構・環境省の環境研究総合推進費「2-2006: メタン吸収能を含めたアジア域の森林における土壌炭素動態の統括的観測に基づいた気候変動影響の将来予測(Evaluation and Future Prediction of the Effect of Climate Change on Asian Forest Soil Carbon Dynamics Based on a Comprehensive Field Study)」

概要:欧米に比べ、有機炭素が豊富な日本を含むアジアモンスーン地域の森林土壌は、微生物呼吸の温暖化に対する長期的なCO2排出量増進の応答が大きいことに加え、温暖化に伴う土壌の乾燥化でCH4吸収能が上昇する可能性も、土壌の劣化でCH4吸収能が低下する可能性も秘めている。しかし、CH4を含めた土壌炭素動態の気候変動応答に関わる観測データの欠如は、将来予測の大きな不確実性の一因となっている。

森林における土壌炭素動態への気候変動影響メカニズムの解明に加え、世界的に前例のない、アジア域を網羅する森林土壌におけるCH4吸収能に関する多地点連続観測、広域推定及び将来予測を行うために、国立環境研究所が開発した世界最大規模のチャンバー観測ネットワークを活用する。北海道からマレーシアまでの広域トランゼクトに沿って選定した代表的な森林生態系を対象に、(1)CH4フラックスの連続観測を新規に10~12ヶ所展開し、世界的に貴重な森林土壌のCH4フラックスに関する長期連続観測データを得る;(2)温暖化操作実験を世界的な観測の空白域である熱帯林2ヶ所で展開し、温暖化に対する土壌炭素貯留量の変動に関する新たなデータを構築する;(3)CH4/CO2フラックスに寄与する土壌微生物特性および土壌呼吸中放射性炭素(14C)を分析し、土壌炭素動態の長期的な温暖化応答メカニズムを解明する;(4)土壌呼吸の観測をより長期化し、短期的な気候変動や極端気象、土地利用変化、森林施業などの影響を定量的に検出する;(5)得られた観測データに基づき、機械学習や経験モデル等の複数のアプローチを検証しながら活用し、アジア域における超高解像な土壌CH4/CO2フラックスの広域推定と将来予測を行う。そこで本研究では、土壌の炭素蓄積能やCH4吸収能に対する気候変動の影響を、日本を含むアジア域の森林で総合的に評価する。パリ協定やSDGsの目標達成のために、土壌炭素貯留量やCH4吸収能の維持及び強化を考慮した緩和策と適応策の策定に資する、科学的根拠を提供する。

http://www.erca.go.jp/suishinhi/seika/pdf/seika_4_h30/2-1705.pdf

2. (独)環境再生保全機構・環境省の環境研究総合推進費「2-1705: アジアの森林土壌有機炭素放出の温暖化影響とフィードバック効果に関する包括的研究
(A Comprehensive Study on Response and Feedback of Asian Forest Soil Carbon Flux to Global Warming)」

概要:世界気候研究計画(WCRP)に設けられた結合モデル開発作業部会(WGCM)が策定した、第5期結合モデル相互比較計画(CMIP5)では、地球温暖化に伴う土壌呼吸の正のフィードバック効果により、熱帯と中緯度における陸域のCO2吸収能は低下すると予測されている。一方で、モデルの長期予測を検証できる実測データはほとんど無いというのが現状である。最近のNature誌に発表された論文では、世界49地点の温暖化操作実験のデータに基づいて、地球規模の土壌有機炭素の将来予測を行った。2℃の長期目標に沿った場合、2050年の時点で全陸域土壌表層10cmの有機炭素は最大105 Gt失われると推定された。しかしながら、ここで用いられた観測データは、西ヨーロッパを除く、ユーラシア大陸やアジア太平洋地域では、2ヶ所の観測データしか無かった。したがって、温暖化や攪乱などの環境変動下における生態系の応答予測のため、特にアジア地域を中心とした広域的なデータ集積を早急に開始する必要性がある。

本研究内容としては、(1)国立環境研究所が開発・推進している世界最大規模のチャンバー観測ネットワークを用いて、北海道の最北端(北緯45°)から赤道付近のマレーシアまでの広域トランセクトに沿って、代表的な森林生態系における土壌呼吸の連続測定を実施する。それによって、気候変動や攪乱が、各森林生態系の炭素循環に与える影響を定量的に把握する。(2)一部のサイトにおいて赤外線ヒーターを用いた温暖化操作実験を行い、土壌有機炭素分解の温暖化に対する反応を定量的に評価する。(3) 環境DNA法を用いて、気候帯や温暖化処理の有無が土壌微生物相やその動態に及ぼす影響を把握し、温暖化効果の長期維持メカニズムを解明する。(4) 土壌放射性炭素(14C)の分析から、土壌の画分毎の有機炭素の蓄積歴及び長期的な温暖化環境下での分解メカニズムを解明する。(5)多地点の長期観測データと土壌有機炭素分解に関する詳細な情報を基に、複数の既存土壌呼吸モデルの比較解析を行い、気候変動や攪乱に対する陸域炭素循環の応答、フィードバック効果の将来予測精度向上に役立てる。

http://www.erca.go.jp/suishinhi/seika/pdf/seika_4_h30/2-1705.pdf

3. 国立環境研究所気候変動適応研究プログラム「PJ1-6: アジア域の陸域生態系機能評価と適応策(Impacts of Climate Change on Degradation of Asian Terrestrial Ecosystems and Its Mechanism Clarification)」

概要:アジアの陸域面積は全陸域面積のわずか30%を覆うにすぎないが、世界人口の60%強の生活を支えている。近年、気候変動およびそれに伴う台風・豪雨・干ばつ・森林火災などが、人間社会だけではなく、自然生態系にも著しく影響を与えている。また、アジア諸国における経済発展によって、この地域の陸域生態系に対する撹乱(土地利用変化)の影響も、深刻さを増している。そこで、本研究では、(1)衛星データによるアジア熱帯域における森林火災の現状把握とモデルによる気候変動下の森林火災増加に関する将来の確率的な予測を行い森林機能の劣化を評価する。また大気グループと協力し大気への影響を評価する。(2)衛星観測により気候変動によるアジア陸域生態系サービス劣化をマクロ的に評価する手法を検討する。(3)世界最大規模のチャンバー観測ネットワークを用いて、北海道の最北端から赤道付近のマレーシアまでのアジアの広域トランセクトに沿って、代表的な陸域生態系における土壌呼吸等の観測により現行の気候変動と生態系機能の変化の関係を評価するとともに、10ヶ所の森林において人工的な温暖化操作実験を行い、気候変動に対する森林土壌環境への影響や応答を評価する。(4) これらから、アジアの森林への気候変動影響を評価し、適応策を検討する。

http://ccca.nies.go.jp/ja/program/pj1-6.html

4. 国立環境研究所国際環境研究事業戦略調整費「アジア熱帯生態系における生態系機能および人為的攪乱や気候変動による影響の解明に向けた研究推進を目的とするパソ観測研究拠点の強化(Strengthening of Pasoh Observation Platform as a Supper Site for the Study on Asian Tropical Ecology and Biodiversity)」

概要:過去NIESの研究者を中心にマレーシア国半島部ネグリセンビラン州にあるパソ保護林内及びその周辺の熱帯生態系に設置した観測プラットフォームを活用し、世界的に見ても長い研究の歴史を持つパソ熱帯林観測拠点を維持することで、物質循環や生物多様性を中心とした熱帯林生態系機能及び人為的攪乱(土地利用変化)や定期的な気候変動(エルニーニョ・ラニーニャ現象)による影響を評価する。また、マレーシアにおけるNIESの海外研究体制の維持にあたっては、現地研究者のキャパシティ・ビルディングを行い、日本のアジア熱帯地域におけるイニシアティブを発揮し、将来的なデータ集積の効率化に貢献する。本プロジェクトは2011年に開始し、現在でもその活動を継続している。

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