A3ワークショップ 釜山報告
2022年8月にスタートした今回のA3事業ですが、開始当初はコロナ禍での渡航制限など様々な障害があり、2022年中はコアメンバーによるオンラインでの打ち合わせを中心とした活動となりました。2022年12月頃になってから、年明けの春先には感染症対策による制限が緩和されることを想定して、対面でのキックオフ集会となるワークショップを韓国・釜山で開催する方向で準備を始めました。
今回のA3事業は、2007-2012年に実施されたA3事業(通称:A3-CarboEastAsia)の実質的な後継となる活動です。A3-CarboEastAsiaでは、日中韓3カ国のイコールパートナーシップをベースにそれぞれの国の中でのナショナルネットワークを整備し、これを3カ国で連携するという枠組みを作りました。日本のフラックス関係研究者を中心にAsiaFluxが活動していましたが、このA3-CarboEastAsiaを契機として日本のナショナルネットワークとしてJapanFluxを立ち上げることとなりました。設立時点から現在にいたるまで、AsiaFluxとJapanFluxの事務局は今回のA3事業の拠点機関である国立環境研究所に置かれています。
A3-CarboEastAsiaでの研究交流を通じて、日中韓ともに多くの若手研究者が活躍し、成長しました。今回のA3事業の中核となっているメンバーの多くは、そのA3-CarboEastAsiaで研究者としてステップアップした研究者です。A3-CarboEastAsiaの終了から今回のA3事業開始までの10年間で、温室効果ガスフラックス研究を取り巻く状況も大きく変わりました。観測技術に関してはレーザー分光型ガス分析計の発達と普及により、CO2以外の温暖化ガスであるCH4やN2Oといった成分も研究の対象として広く扱われるようになりつつあります。数値モデルの分野では、プロセスベースモデルだけでなく、機械学習的アプローチを取り入れたデータ駆動型モデルが急速に発展しています。広域評価については温暖化ガスを観測できる衛星や空間解像度の高い各種の光学衛星、時間解像度の高い静止軌道衛星など利用可能な情報が飛躍的に増えつつあり、人工衛星と地上観測を繋ぐ検証観測についても重要性が高くなってきています。
気候変動など地球スケールの環境問題は数十年という取り組みの中で人間が協力して対応する必要があり、現在の研究リーダーたちが現役の間に決着する問題ではありません。このように地球観測の内容の高度化が進んでいる中で、さまざまな情報を組み合わせて新たな研究展開をすすめる次世代の研究者の育成の重要性がますます高くなってきています。日本では、特に地球観測を支える研究分野では、研究者を志向する学生が少なくなっている状況にあります。こうした中で、今回開始したA3事業を通じて、若手研究者に活躍の場を与えモチベーションを高めるとともに、日中韓3カ国の今後の連携を強化し、さらにはアジア域全体を先導するような研究分野の活性化を図っていくことが、日中韓のコアメンバーの共通した目的です。
さて、釜山でのキックオフ集会であるA3 International Workshop in Busanですが、4月に韓国・釜山で2泊3日の日程で開催されました。今回は今後の研究交流の方針の策定などの議論を進める必要があり、3カ国からコアメンバーを中心に約10名ずつが参加し、各国での研究のトピックなどについて紹介を行うとともに、今後の研究交流の進め方についてのアイディア出しを行いました。基本的にはいくつか重要となるサブテーマを設定し、3カ国の対応するコアメンバーを中心として活動を進めていくことや、公募型の研究テーマを募ることなどが話しあわれました。非常に短期間による会合ではありましたが、前回のA3-CarboEastAsiaで若手研究者として参加していた日中韓それぞれのメンバーが今回はリーダー的な存在として熱心なディスカッションをし、また夜には以前の思い出話や現在の苦労話をしながら、一緒に現地料理を食べながら交友を深めることとなりました。コロナ禍の影響を強く受けた今回のA3事業の船出ではありましたが、このチャンスを活かして日本のこの研究分野の活性化がもたらされるように最大の努力をしていきたいと思います。

